彼らの正体は、個人として成り立つ存在ではなく、人の意識、記憶、概念として成り立つ存在、
御伽噺の様に語り継がれていくことで存在を確立する、一種のミームである。
現代における霧の殺人鬼だけではなく、過去にいくつもの霧の殺人鬼と思われる存在が確認されている。
個体によって人、意思を持った獣、人ならざる者、数多の種類が存在していたようだ。
時代によっては単体のみならず、複数生まれてくる事もあり、
さらに現代に近づくにつれ、その頻度は増えてきている。
成り立ちの時期は不明だが、最初に霧の殺人鬼と思われる存在が記録されたのは古代、魔に魅入られた者―――所謂『魔人』と呼ばれたものである。
名前の通り、何れの個体も大量の殺人を伴い現れる。
そして自らの殺害の仕方、標的に一定のルール、拘りに近いものを持っている。
常人には理解しえない『美学』などと宣う様な言動と振る舞いを行う。
その殺人の規模は個体によって大きく異なる。過去に確認されている分では数十人から数百人まで。
活動場所もまばらで、一地区に留まるものもいれば一国を股にかけるものまでいた。
また、霧の殺人鬼は常に存在しているわけではなく、一つの時代の転換期、最盛期、
または一国から世界全体に幅広く影響を及ぼす、波乱や動乱の傍らに生まれ、暗躍する。
彼ら自身が嵐を生むことさえあり、不確定要素に包まれた存在である。
その誕生に上記以外の法則性はまるでなく、
霧の殺人鬼というワードと、それに纏わる話を知っていることだけで、誰しもが霧の殺人鬼となりうる可能性を持つ。
いくら霧の殺人鬼と見られる個体を捕らえ、殺し、世の中から消したとしても、
信仰、子供に聞かせる脅かし話、伝承、どんな形であれ、霧の殺人鬼の名が消えない限り、彼らが真に消えることはない。
結論として、
時代、文明開化などの途方もなく長い時間単位での神出鬼没、不定形のシリアルキラー。
霧を掴むことはできない。霧の先を見通すことはできない。
いくら振り払おうと、また霧は覆う。
故に。
『霧の殺人鬼』
RIPPER OF MIST